インスタントコーヒーを溶いたスプーンを差したまま、マグカップに口をつける。
一瞬頬に柄が触れて、ちり、とした刺激が走る。熱い。
「シルバーは熱の伝わり方がとても美しいのですよ。」
吉祥寺のはずれ、半地下のアンティークショップで魔女のような店主が言った。
それが"よい"ではなくて"美しい"だったことをはっきりと覚えている。
「たとえばそう...今日みたいな寒い日に、暖めた部屋でちょっといいアイスクリームなんかを食べるでしょう。ひんやりした薄い縁の舌触りに、それはそれは贅沢なうっとりした気分になるの。」
冬の夕暮れの低い陽射しが頭上の窓から滑り込み、古いテーブルの天板をオレンジ色に染めている。
並んだカトラリーたちは、それぞれに凝った細工が施され眠たそうに光っていた。
今手元にあるものは、後に雑多なリサイクルショップで見つけた安価なものだ。
使い方も優雅とは言えない。
けれどその熱さや冷たさを感じる度に、"美しい熱の伝わり方"が頭に浮かぶ。