くらやみの先へ
文 中澤萌音
絵 セリザワキリコ
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くらやみをおそれる
なにかに引きずりこまれそうな
飲みこまれそうな気がする
にぎやかな街
日差しがふりそそいでいる
笑い声 車のクラクション
雑音でみちている
そんなとき
ビルとビルの すきまのくらやみの前に
立ち止まる
その しん、 としたくらやみでは
時間は流れていない
なにがあるんだろう
じっと見ていると かすかな
音 がきこえた気がした
すいよせられるように くらやみに近付くと
気がついたとき
大きな みずうみ が目のまえに広がっていた
みずうみは
踊るように ちいさくゆれうごいていた
水面には光の粒がいくつもうかんでいた
ちいさなものがあつまり 一粒ずつ
ガラスのビンにいれていった
さいごのひとつぶをおさめると
ちいさなものたちは
いっせいにビンをふった
音はしなかった
そのかわりに
わたしの体中で 音 があふれ
ぐんぐんとめぐっていった
ちいさなものたちの歌声がかさなり
生まれたてのこころが流れ出していた
ふと気がつくと
またビルとビルのすきまを見つめ
たたずんでいる
そうか
くらやみはわたし自身だった
おそれることはない
そこではなにかがまっている
透きとおり 溶けることのない
結晶のようなこころが眠っている