泡立つ夜半

芹沢きりこ

くらやみの先へ

f:id:kilico516:20200819153014j:image
f:id:kilico516:20200819153027j:image
f:id:kilico516:20200819153019j:image
f:id:kilico516:20200819153024j:image

 

くらやみの先へ

 

文 中澤萌音

絵 セリザワキリコ

 

--------------------

 

くらやみをおそれる

 

なにかに引きずりこまれそうな

飲みこまれそうな気がする

 

 

にぎやかな街

日差しがふりそそいでいる

 

笑い声 車のクラクション

雑音でみちている

 

 

そんなとき

ビルとビルの すきまのくらやみの前に

立ち止まる

 

 

その しん、 としたくらやみでは

時間は流れていない

 

 

なにがあるんだろう

 

じっと見ていると かすかな

音 がきこえた気がした

すいよせられるように くらやみに近付くと

 

 

気がついたとき

大きな みずうみ が目のまえに広がっていた

 

 

みずうみは

踊るように ちいさくゆれうごいていた

 

 

水面には光の粒がいくつもうかんでいた

 

ちいさなものがあつまり 一粒ずつ

ガラスのビンにいれていった

 

 

さいごのひとつぶをおさめると

ちいさなものたちは

いっせいにビンをふった

 

音はしなかった

 

 

そのかわりに

わたしの体中で 音 があふれ

ぐんぐんとめぐっていった

 

ちいさなものたちの歌声がかさなり

生まれたてのこころが流れ出していた

 

 

ふと気がつくと

またビルとビルのすきまを見つめ

たたずんでいる

 

 

そうか

くらやみはわたし自身だった

 

 

おそれることはない

そこではなにかがまっている

 

透きとおり 溶けることのない

結晶のようなこころが眠っている

 

 

f:id:kilico516:20200819202330j:image